排気

考え

都市は人の屍の上に成る

4月になると沢山の人が、新しい生活を始める。

 

フレッシュさのあるスーツ姿の若者は、おそらく私と同年代だが、希望に満ちた目をしているところから判断するとおそらく新卒なのだろう。

 

僕は転職活動で採用され、東京のある職場でホワイトカラーとして働き出した。

 

そこで待っていた職場生活は、社長に詰められ、ダメ出しを受け続けることだった。

 

初出勤して、驚いたことは、引き継ぎ資料が用意されていない中の、引き継ぎである。

 

社長曰く

「まずは慣れるだけ、覚えなくて良い」

「とりあえず2つだけ、覚えられるように頑張って」

 

私はこの言葉を信じたが、実際には全く異なる状況だった。業務は10以上あり、細分化すればもっと多い。これをリモート環境が整っていないのにも関わらず、相手方は東京にいないので、会社にいながらリモートでの引き継ぎを1週間でこなす必要が生じていた。どんな業務があるのかの資料が一切用意されていないので、知らない言葉の呪文を延々と聞いている感覚だった。

 

こんな状況で、効率的に引き継ぎが出来る訳がない。

 

ただ、これに気がついたのは引き継ぎ5日目くらい。結局、リモートでパーっと説明を説明を受けただけで、実践が無ければ仕事など覚えられなかった。

 

早くも、私は引き継ぎ元の社員と社長から詰められる日々が始まった。

 

時には朝一、時には退勤時間30分前、別室に呼び出される。仕事は覚えたかと聞かれ、他の社員から私の仕事の様子を(私の出来ていないことだけを抽出して)ヒアリングした情報を元に、詰められる。

 

そこで、引き継ぎ資料を簡単でいいから箇条書きで書いて欲しいこと、残業を使い業務を整理する時間を設けること、もう残業代なくてもいいから職場で習ったことを整理したいこと、リモートの画面を録画する事を許可して欲しい、と訴えたが全部拒否された。

 

結局紙のメモを片手にやるしかなく、大量の仕事を構造化する機会を作れなかった僕は、仕事出来ない人と言う第一印象を職場に与えることになった。

 

だんだん分かってきたのだが、職場の雰囲気は悪い。社長と営業は仲良く、特定の社員の陰口を話す。顧客に笑顔になれるくせ、社員には辛辣に当たる(しかも、人を選ぶ)。

 

土日以外はご飯を食べられなくなり、退勤後はもう何も出来ない。自分が屍になった感覚に襲われた。

 

僕の勤める会社は高級品を取り扱う。同じように高級品を扱う会社は、綺麗なオフィスを都内に構え、ブティックで接客する社員は服も笑顔も綺麗である。

 

そんな、東京都の煌びやかさの中を歩いていると、怒られる落ち込み、鬱を感じる人が作り出す偽りの煌びやかさのように見えてきてしまった。

 

別に死にやしないどうしようもないホワイトカラーの仕事で、意味のない疲労をしてまで作り出される東京の美しさに、ゾッとし、改めて自分らしく行きたいと望むようになった。